「物を強く握ってしまう」
「ドアを強く閉める」
「鉛筆の筆圧が強すぎる」
「人に触れるとき、力が入りすぎる」
「ボールを投げる力をうまく調整できない」
子どものこうした様子を見て、
「どうして力加減ができないんだろう」
「乱暴なのかな」
「もっと注意した方がいい?」
「発達と関係があるの?」
と気になることがあります。
でも、力加減がうまくいかない背景は一つではありません。
- 手や体にどのくらい力が入っているか分かりにくい
- 動きを止めたり弱めたりすることが難しい
- 道具の扱いにまだ慣れていない
- 姿勢が安定しにくい
- 急いで動いてしまう
- 感覚の感じ方に違いがある
- 運動の協調が難しい
など、さまざまなことが関係する場合があります。
大切なのは、
「乱暴にしないで」
と注意することだけではなく、
「どんな場面で力が入りすぎるのか」
「どのくらいの力ならうまくできるのか」
「道具ややり方を変えるとどうなるのか」
を見ていくことです。
子どもが力加減を苦手なのはなぜ?
物を持ったり、押したり、書いたりするときには、
- どのくらい力を入れるか
- いつ力を抜くか
- どの方向へ動かすか
- どこで止めるか
を細かく調整しています。
たとえば鉛筆で字を書くときも、
- 鉛筆を持つ
- 指に力を入れる
- 紙に押しつける強さを調整する
- 線を動かす
- 次の文字へ移る
という複数の調整が必要です。
そのため、
「力が強すぎる」
「逆に力が弱すぎる」
という場合でも、単純な筋力の問題とは限りません。
力加減が苦手だと、どんな様子がみられる?
力の調整が難しい場面は、生活の中にたくさんあります。
物を強く握る・扱う
- おもちゃを強く握る。
- 物を机に強く置く。
- ドアや引き出しを勢いよく閉める。
こうした行動がみられることがあります。
周囲からは、
「乱暴に扱っている」
ように見えることがありますが、
本人がどのくらい力を入れているのか分かりにくい場合もあります。
人に触れる力が強い
- 友だちの肩を強くたたく。
- 抱きつく力が強い。
- 手をつなぐと強く握る。
本人には、
「軽く触ったつもり」
でも、相手には強く感じられる場合があります。
もちろん、人を傷つける行動は止める必要があります。
そのうえで、
「やさしくして」
だけではなく、
「このくらいの力」
を具体的に示す方が分かりやすい子もいます。
筆圧が強すぎる
字を書くときに、
- 鉛筆の芯がよく折れる
- 紙がへこむほど強く書く
- 消しゴムで消しにくい
- 手がすぐ疲れる
- 鉛筆を強く握り込む
といったことがあります。
反対に、筆圧が弱く、文字が薄くなる子もいます。
国立障害者リハビリテーションセンターも、手先の操作が苦手な子どもで筆圧に特徴がみられる場合があることを紹介しています。
ボールの力を調整しにくい
- 近くの相手にも強く投げる。
- 遠くへ投げたいのに力が足りない。
- 蹴る力を調整できない。
こうした場合には、
- 距離
- タイミング
- 体の動き
- 力の調整
を同時に行うことが難しい可能性があります。
食事で力が入りすぎる
- スプーンを強く握る。
- 箸に力が入りすぎる。
- 食器を強く置く。
- 食べ物を強くつぶしてしまう。
こうした場面にも、手先の力加減が関係することがあります。
力加減にはどんな力が関係している?
力加減は、単に「筋力が強いか弱いか」だけで決まるものではありません。
手や体の位置を感じる力
私たちは、目で見なくても、
- 手がどこにあるか
- 腕がどのくらい曲がっているか
- どのくらい力が入っているか
をある程度感じることができます。
こうした体の位置や動きに関する感覚が、力加減の調整にも関わります。
動きを止める・弱める力
- 強く押す。
- 勢いよく走る。
- 物を投げる。
こうした動きを始めるだけでなく、
途中で弱める
ちょうどよいところで止める
ことも必要です。
勢いの調整が難しいと、動き全体が強く見えることがあります。
目と手を一緒に使う力
- 物を見る。
- そこへ手を伸ばす。
- ちょうどよい位置で止める。
というように、目と手の動きを合わせる力も関係します。
姿勢の安定
机で文字を書く場合には、手だけでなく、体を支えながら腕や指を動かします。
姿勢が安定しにくいと、
- 必要以上に鉛筆を握る
- 机に強く押しつける
など、手に余計な力が入る場合があります。
感覚の感じ方
子どもによっては、
- 強く握った方が物を持っている感じが分かりやすい
- 強い刺激の方が安心する
ということもあります。
反対に、触覚が敏感で、物を扱うこと自体が負担になる子もいます。
感覚の感じ方には個人差があります。国立障害者リハビリテーションセンターも、感覚の敏感さや鈍感さによって生活上の困りごとが生じる場合があるとしています。
「力加減が苦手=発達障害」ではありません
力加減が難しいと、
「発達障害と関係があるのでは?」
と心配になることがあります。
しかし、
力加減が苦手という一つの行動だけで、発達障害と判断することはできません。
子どもは成長の中で、
- 道具の使い方
- 運動
- 力の調整
を少しずつ学んでいきます。
一方で、神経発達症のある子どもの中には、
- 運動の協調
- 感覚の感じ方
- 注意や衝動の調整
などの違いが、力加減の難しさにつながる場合があります。
大切なのは、
「診断名があるか」
だけではなく、
本人がどんな場面で困っているのかを見ることです。
発達性協調運動症(DCD)と力加減には関係がある?
発達性協調運動症(DCD)は、運動の協調に関わる神経発達症の一つです。
DCDでは、
- 体全体の運動
- 手先の操作
- 道具の使用
などに難しさがみられることがあります。
そのため、
物を扱うときの動きがぎこちない
力の調整が難しい
書字や食具の操作に時間がかかる
といった様子がみられる場合があります。
ただし、
力加減が苦手だからといって、DCDと判断できるわけではありません。
日常生活への影響や、ほかの運動技能も含めて専門的に評価します。
「乱暴な子」と考えない方がいい?
力が強すぎると、
- 物を壊す
- 人に強く触れる
- ドアを強く閉める
など、周囲が困ることもあります。
危険な行動や人を傷つける行動は、もちろん止める必要があります。
ただし、
「乱暴な子」
「わざとやっている」
と決めつけるだけでは、本人が何を調整しにくいのか分かりません。
たとえば、
「やさしく置いて」
だけでは分かりにくい場合には、
「音がしないくらいに置こう」
「このくらいの力で押そう」
というように具体的に伝える方法があります。
必要に応じて、大人が実際に見本を見せることも役立ちます。国立障害者リハビリテーションセンターも、言葉だけで伝わりにくい場合には、実物や見本を使うなど、伝え方を工夫することを紹介しています。
家庭でできる工夫
力加減が難しい場合には、
「もっと優しく」
と注意するだけではなく、分かりやすく経験できる方法を作ります。
「強い・弱い」を実際に比べる
たとえば、
- 強く押す
- 少し押す
- そっと触る
という違いを、大人と一緒に試してみます。
言葉だけではなく、
「これは強い」
「これはちょうどいい」
と実際の感覚と結びつけます。
見本を見せる
- ドアを閉める。
- 物を置く。
- 鉛筆を持つ。
こうした動作を、
「このくらい」
と大人が実際に見せます。
視覚的に見た方が理解しやすい子もいます。
道具を変える
道具によって必要な力は変わります。
たとえば、
- 握りやすい太さの鉛筆
- 鉛筆グリップ
- 持ちやすいスプーン
- 滑りにくい食器
- 軽すぎず扱いやすい道具
などを試す方法があります。
力を入れる遊びと、力を抜く遊びを経験する
- 押す。
- 引っ張る。
- 運ぶ。
- 粘土をこねる。
- ボールを投げる。
こうした遊びの中で、
「強く力を入れる場面」
と、
「そっと扱う場面」
の違いを経験できます。
ただし、特定の運動をすれば力加減が必ず改善する、というわけではありません。
本人が楽しめる範囲で行います。
筆圧が強いときは、書く量も見る
筆圧が強くて手が疲れる場合には、
長時間書かせる
だけでなく、
- 書く量を減らす
- 途中で休憩する
- 握りやすい鉛筆を使う
といった方法があります。
できたときに具体的に伝える
「やさしくできたね」
だけでなく、
「今、音を立てずに置けたね」
「さっきより軽く握れたね」
「相手が痛くないくらいで触れたね」
というように、何がうまくできたのかを具体的に伝えます。
力加減が苦手なときに避けたい対応
力加減がうまくいかないと、大人も何度も注意したくなります。
しかし、
- 「乱暴!」と決めつける
- 何度も強く叱る
- 失敗するたびに責める
- 本人が分かっている前提で「普通にやって」と言う
だけでは、どう調整すればよいのか分からないことがあります。
大切なのは、
「やってはいけない」
だけでなく、
「どのくらいならよいのか」
を分かりやすく伝えることです。
相談した方がいいのはどんなとき?
力加減には個人差があります。
一方で、次のような場合には相談を考えてもよいでしょう。
- 物を頻繁に壊してしまう
- 人に触れる力が強く、トラブルが続いている
- 筆圧や手先の力加減で学習に大きな負担がある
- 食具や道具の操作が非常に難しい
- 運動全体にも強い不器用さがある
- 本人が日常生活で困っている
- 園や学校から運動や手先について相談を勧められている
- 家庭で工夫しても困りごとが大きい
また、
以前できていた手や体の動きができなくなった
急に力が入りにくくなった
片側だけ動かしにくい
痛みがある
といった場合には、早めに医療機関へ相談してください。
相談先はどこ?
相談先としては、
- かかりつけの小児科
- 発達を専門とする医療機関
- 自治体の発達相談
- 保健センター
- 作業療法士
- 理学療法士
- 園や学校の先生
などがあります。
発達上の運動の困りごとでは、必要に応じて作業療法や理学療法などにつながることがあります。国立障害者リハビリテーションセンターも、発達性協調運動の困難がある場合などには、小児科リハビリテーションを行う医療機関が活用される場合があるとしています。
相談するときには、
「力加減が苦手です」
だけでなく、
「どんな場面で強くなるか」
「どんな物を扱うときに困るか」
「筆圧や書字はどうか」
「人との関わりで困ることがあるか」
「運動全体にも難しさがあるか」
などを伝えると、状況を整理しやすくなります。
力加減だけで、その子を決めつけない
物を強く扱ったり、人への触れ方が強かったりすると、
「乱暴」
「雑」
「加減ができない」
と見られてしまうことがあります。
でも、
強く握らないと分かりにくい。
動きを弱めるタイミングがつかみにくい。
道具が合っていない。
急いでいると調整が難しい。
ということもあります。
大切なのは、
「もっとちゃんと加減しなさい」
と繰り返すことだけではありません。
どんな場面で難しいのか。
どんな伝え方なら分かりやすいのか。
どんな道具なら使いやすいのか。
どのくらいの力ならうまくできるのか。
そうしたことを一つずつ見つけていくことです。
理解できることが増えれば、できることも増えていきます。
