「はさみがうまく使えない」
「箸を使うのに時間がかかる」
「ボタンを留めるのが苦手」
「鉛筆を持つとすぐ疲れる」
「字を書くことを嫌がる」
子どものこうした様子を見て、
「手先が不器用なのかな」
「練習が足りない?」
「発達と関係があるの?」
と気になることがあります。
手先を使う動作は、見た目以上に複雑です。
物を見る。
手を目的の場所へ動かす。
指をそれぞれ動かす。
力を調整する。
両手を協力させる。
道具を動かしながら、次の動きを考える。
こうした働きを組み合わせながら行っています。
そのため、同じ「手先が不器用」に見える場合でも、
- 指の動かし方
- 力加減
- 目と手の協調
- 両手の使い方
- 姿勢
- 感覚の感じ方
- 道具の使いやすさ
- その活動を経験した量
など、さまざまなことが関係する場合があります。
大切なのは、
「もっと練習しなさい」
と繰り返すことではなく、
「どこが難しいのか」
「どんな道具なら使いやすいのか」
「どんな方法ならできるのか」
を見つけていくことです。
子どもの手先が不器用なのはなぜ?
手先を使う活動では、指だけを使っているわけではありません。
姿勢を保つ。
肩や腕を安定させる。
物を見る。
手を動かす。
力を調整する。
こうしたことが同時に必要になります。
たとえば、はさみで紙を切る場合には、
- はさみを持つ
- 指を開いたり閉じたりする
- 反対の手で紙を持つ
- 切る線を見る
- 紙を動かす
- 切る方向を調整する
という複数の動作を組み合わせます。
そのため、
「はさみが使えない」
という一つの行動だけでも、どこに難しさがあるのかは子どもによって違います。
手先の不器用さはどんな場面でみられる?
手先を使う場面は、生活の中にたくさんあります。
はさみが苦手
はさみを使うときに、
- 刃をうまく開閉できない
- 紙を持つ手と、はさみを使う手を一緒に動かせない
- 線に沿って切ることが難しい
- 途中で紙の向きを変えられない
- 手がすぐ疲れる
といったことがあります。
単に「切り方を知らない」だけでなく、両手を協力させることや、目と手の動きを合わせることが難しい場合もあります。
箸やスプーンが苦手
食具を使うときには、
- 持つ
- 食べ物へ手を伸ばす
- 適切な力ではさむ
- 口まで運ぶ
という動作が必要です。
箸では、さらに指を細かく動かす必要があります。
そのため、
- 箸を持つ形が安定しない
- 食べ物を落とす
- 握り箸になる
- 食事に時間がかかる
といったことがあります。
年齢や経験によってできることは変わるため、周囲の子と比べるだけで判断する必要はありません。
ボタンやファスナーが苦手
着替えでは、
- 小さなボタンをつまむ
- 穴の位置を見る
- ボタンを押し込む
- 反対の手で服を支える
といった動きが必要になります。
ボタンが苦手でも、
- 大きいボタンならできる
- 服を机に置けばできる
ということもあります。
何が難しいのかによって、工夫の方法も変わります。
鉛筆を持つと疲れる
鉛筆を強く握りすぎる。
逆に力が入りにくい。
すぐに手が疲れる。
何度も持ち直す。
こうした様子がみられることがあります。
鉛筆操作には、指だけでなく、姿勢や腕、手首の安定も関係しています。
そのため、
「持ち方を直せば解決する」
とは限りません。
字を書くことが苦手
書字では、
- 文字の形を覚える
- 書く位置を見る
- 鉛筆を動かす
- 力を調整する
- 一定の大きさに書く
など、さまざまな働きが必要です。
そのため、
- 字を書くのに時間がかかる
- 文字の大きさがそろいにくい
- 枠から大きくはみ出す
- 筆圧が極端に強い、または弱い
- 書くこと自体を強く嫌がる
といったことがあります。
国立障害者リハビリテーションセンターも、細かな手先の操作が苦手な子どもでは、絵やひらがなを書くときの筆圧が弱い、作業が極端に遅いなどの様子がみられることを紹介しています。
手先を使うために必要な力
「手先の器用さ」といっても、実際にはいくつもの働きが関係しています。
指を細かく動かす力
小さな物をつまむ。
鉛筆を操作する。
ボタンを留める。
こうした活動では、指をそれぞれ細かく動かします。
ただし、単純に指の筋力だけで決まるわけではありません。
目と手を一緒に使う力
見ている場所へ手を動かすことを、目と手の協調と呼ぶことがあります。
線に沿って切る。
枠の中に文字を書く。
小さな穴にひもを通す。
こうした活動では、目で確認しながら手を調整します。
両手を協力させる力
はさみで紙を切る。
ボタンを留める。
容器のふたを開ける。
こうした動作では、
片方の手で物を支えながら、
もう一方の手を動かす
必要があります。
力加減を調整する力
鉛筆を強く握りすぎる。
物を落としやすい。
食具を使うと力が入りすぎる。
こうした場合には、力加減の調整が難しい可能性があります。
姿勢を保つ力
机で作業するときには、座った姿勢を保ちながら手を使います。
体を支えることに大きな負担があると、
- 机に伏せる
- 片手で頭を支える
- 手元の作業に集中しにくい
といったことがあります。
感覚と手先の不器用さには関係がある?
物を操作するときには、
触った感じ
手や指の位置
力がどのくらい入っているか
といった感覚も使います。
そのため、感覚の感じ方によって道具の使いやすさが変わることがあります。
たとえば、
- のりが手につくのを強く嫌がる
- 粘土や絵の具に触れたがらない
- 鉛筆の握り方が極端に強い
- 物を持っている感覚が分かりにくそう
- 手元を見続けないと操作しにくい
といった様子がみられる子もいます。
ただし、
こうした行動がある=感覚の問題
と一つの原因に決めることはできません。
「手先が不器用=発達性協調運動症(DCD)」ではありません
手先の不器用さについて調べると、
「発達性協調運動症(DCD)」
という言葉を目にすることがあります。
DCDは、運動の協調に関わる神経発達症の一つです。
DCDのある子どもでは、
- 書く
- 描く
- はさみを使う
- 食具を使う
- ボタンを留める
- 靴ひもを結ぶ
など、手先を使う活動に難しさがみられることがあります。
一方で、
手先が不器用だからといって、すべての子どもがDCDというわけではありません。
DCDでは、年齢や経験から期待されるより運動技能の獲得や遂行が難しく、その困難が家庭や学校などの日常生活に持続的な影響を与えているかなどを含めて評価します。
NHSも、DCDの子どもでは書字、描画、はさみ、ボタン、靴ひもなどに難しさがみられる一方、不器用に見えるだけではDCDとは限らないと説明しています。
書字が苦手なら、たくさん書かせた方がいい?
字を書くことが苦手だと、
「たくさん練習すれば上手になる」
と考えたくなることがあります。
練習によって慣れることもあります。
一方で、
書くこと自体に非常に時間がかかる
手がすぐ痛くなる
何度練習しても強い負担がある
という場合には、
書く量を増やすだけでは解決しないことがあります。
まず、
- 鉛筆は握りやすいか
- 机や椅子は合っているか
- 書く量が多すぎないか
- 文字の大きさや枠は見やすいか
なども確認します。
必要に応じて、
- 太めの鉛筆
- 鉛筆グリップ
- 大きめのマス
- 書く量の調整
などを使う方法もあります。
家庭でできる工夫
手先の不器用さが気になる場合には、
「できるまで繰り返す」
だけでなく、成功しやすい方法を作ります。
難しい動作を小さく分ける
たとえばボタンなら、
- ボタンをつまむ
- 穴を見つける
- 先端を少し入れる
- 引っ張る
というように分けます。
全部を一度にできることを求めず、
できる部分から練習します。
大きい物から始める
小さなボタンが難しければ、大きなボタンから始める。
細い鉛筆が持ちにくければ、太めのものを使う。
小さな工作が難しければ、大きな紙で試す。
難易度を下げることで、動作を覚えやすくなることがあります。
使いやすい道具を選ぶ
道具によって難しさが変わることがあります。
たとえば、
- 握りやすい太さの鉛筆
- 鉛筆グリップ
- 子どもの手に合うはさみ
- 滑りにくい食器
- 持ちやすいスプーンやフォーク
- 大きめのファスナー
などがあります。
「一般的な道具を使えなければいけない」
と考えず、その子が使いやすいものを選びます。
遊びの中で手を使う
手先の練習は、プリントだけで行う必要はありません。
粘土。
ブロック。
折り紙。
シール。
ひも通し。
お絵描き。
料理のお手伝い。
こうした遊びや生活の中でも、さまざまな手の動きを経験できます。
苦手な活動を長時間続けない
手先を使う活動が苦手な子にとって、
- 工作
- 書字
- 着替え
などは、大人が思う以上に疲れることがあります。
短い時間で区切り、
一度休む
別の活動をする
という方法も使えます。
できた部分を具体的に伝える
「上手」
だけでなく、
「線のところまで切れたね」
「自分でボタンを一つ入れられたね」
「前より力を抜いて書けたね」
というように、何ができたかを具体的に伝えます。
必要なら別の方法を使う
すべての活動を、同じ方法でできるようにする必要はありません。
たとえば、
- 靴ひもではなく面ファスナー
- 小さなボタンではなくスナップ
- 長い文章はタイピング
など、負担を減らす方法があります。
「できないから逃げる」
のではなく、
生活や学習に必要以上の負担をかけないための工夫
と考えることができます。
箸は何歳までに使えないといけない?
箸を使い始める時期や上達するペースには個人差があります。
そのため、
「○歳なのに箸が使えない」
という年齢だけで判断する必要はありません。
まずは、
スプーンやフォークを安定して使える
食事を安全に食べられる
ことも大切です。
箸が難しい場合には、
本人が使いやすい食具を使いながら、必要に応じて少しずつ経験していきます。
食事そのものが嫌な時間にならないことも重要です。
はさみは何度も練習させるべき?
はさみは、手先だけでなく両手の協調や目と手の動きも必要な道具です。
そのため、
何度も同じ線を切らせる
だけでなく、
- 短い直線から始める
- 紙を厚めにする
- 切る距離を短くする
- 扱いやすいはさみを使う
など、課題の難しさを調整します。
安全に使えるよう、大人が見守ることも大切です。
相談した方がいいのはどんなとき?
手先の器用さには個人差があります。
一方で、次のような場合には相談を考えてもよいでしょう。
- 食事や着替えなど日常生活への影響が大きい
- はさみ、箸、ボタンなどが年齢や経験に比べてかなり難しい
- 書字に非常に時間がかかる
- 書くことで強い疲れや痛みがある
- 工作や書字を強く避けるようになっている
- 学校の課題を終えることが難しい
- 運動全体にも強い不器用さがある
- 本人が「自分はできない」と強く自信を失っている
- 園や学校から手先の使い方について相談を勧められた
また、
- 以前できていた手の動きができなくなった
- 片方の手だけ明らかに動かしにくくなった
- 急に力が入りにくくなった
- 強い痛みがある
といった場合には、早めに医療機関へ相談してください。
相談先はどこ?
相談先としては、
- かかりつけの小児科
- 発達を専門とする医療機関
- 自治体の発達相談
- 保健センター
- 作業療法士
- 園や学校の先生
などがあります。
作業療法では、着替え、食事、書字、工作など、日常生活で必要な活動について、本人がどこで困っているのかを確認し、道具や方法、環境などを検討することがあります。
相談するときには、
「手先が不器用です」
だけでなく、
「何が難しいか」
「どのくらい時間がかかるか」
「どんな道具なら使えるか」
「本人がどのくらい困っているか」
「家庭と園・学校で違いがあるか」
を伝えると、状況を整理しやすくなります。
手先の器用さだけで、その子を決めつけない
手先を使うことが苦手だと、
「遅い」
「雑」
「練習不足」
と見られてしまうことがあります。
でも、
ゆっくりならできる。
大きな道具なら使える。
書くことは苦手でも、口で説明することは得意。
工作は苦手でも、考えることは好き。
ということもあります。
大切なのは、
「みんなと同じ方法でできること」
だけではありません。
何が難しいのか。
どんな道具なら使いやすいのか。
どのくらいなら無理なく取り組めるのか。
別の方法を使える場面はないか。
そうしたことを一つずつ知っていくことです。
理解できることが増えれば、できることも増えていきます。
