「思いどおりにならないと、激しく泣く」
「床に寝転がって、なかなか動かない」
「物を投げたり、叩いたりする」
「一度始まると、どう声をかけても止まらない」
そんな癇癪が続くと、
「どうしてこんなに激しいのだろう」
「自分の対応が悪いのかな」
「発達に何か関係があるのかな」
と心配になることがあるかもしれません。
子どもの癇癪は、幼児期にはよくみられる行動の一つです。
一方で、癇癪の強さや頻度、起こる場面、生活への影響は子どもによって大きく違います。
大切なのは、癇癪そのものを止めることだけを考えるのではなく、
「何がきっかけになっているのか」
「子どもは何に困っているのか」
「どうすれば起こりにくくなるのか」
を見ていくことです。
この記事では、子どもの癇癪が起こる背景、家庭でできる対応、発達との関係、相談を考える目安まで整理します。
子どもの癇癪がひどいのはなぜ?
癇癪は、一つの原因だけで起こるとは限りません。
子どもが強い怒りや悔しさ、不安、疲れなどをうまく処理できないときに、泣く、叫ぶ、物を投げる、その場から動けなくなるなどの形で表れることがあります。
特に幼い子どもは、
「やりたいこと」
「伝えたいこと」
「感じていること」
を、まだ十分に言葉で表せないことがあります。
また、気持ちを切り替えたり、我慢したり、自分を落ち着かせたりする力も発達の途中です。
そのため、
「分かっているのに、わざと困らせている」
と考えるよりも、
「今は自分で気持ちを整えることが難しいのかもしれない」
と見てみると、対応を考えやすくなります。
癇癪とは?
一般に「癇癪」と呼ばれるのは、子どもが強い感情をうまく調整できず、泣く、叫ぶ、怒る、物を投げる、床に寝転がるなどの行動として表れる状態です。
医学的な診断名ではなく、日常生活で使われる言葉です。
癇癪の現れ方は一人ひとり違います。
短い時間で落ち着く子もいれば、長く続く子もいます。
声が大きくなるだけのこともあれば、叩く、蹴る、物を投げるなどの行動を伴うこともあります。
どんな行動を「癇癪」と呼ぶ?
たとえば、
- 大声で泣く、叫ぶ
- 床に寝転がる
- 物を投げる
- 叩く、蹴る
- その場から動かなくなる
- 要求が通るまで強く泣き続ける
- 気持ちを切り替えられず、長く怒り続ける
といった様子がみられることがあります。
ただし、こうした行動があるからといって、それだけで発達障害や心の病気を意味するわけではありません。
幼児期にはよくみられる
幼児期は、
「自分でやりたい」
「これがほしい」
「まだ終わりたくない」
という気持ちが強くなる一方で、それを言葉で伝えたり、我慢したり、気持ちを切り替えたりする力はまだ発達の途中です。
そのため、思いどおりにならない場面で強く泣いたり、怒ったりすることがあります。
こうした癇癪は、幼児期には珍しいものではありません。
一方で、年齢が上がっても非常に激しい癇癪が頻繁に続く場合や、本人や家族の生活に大きな負担が出ている場合には、
「年齢相応だから」
だけで片づけず、背景を見ていくことが大切です。
子どもが癇癪を起こす主な背景
癇癪が起きたとき、
「またわがままを言っている」
と見えてしまうことがあります。
しかし、その背景にはさまざまな理由が考えられます。
思いどおりにならない
「まだ遊びたい」
「このお菓子がほしい」
「自分でやりたかった」
など、希望がかなわなかったときに、強く怒ったり泣いたりすることがあります。
幼い子どもは、
「残念だったけれど、仕方がない」
と気持ちを整理することがまだ難しいため、感情が一気に表に出ることがあります。
気持ちをうまく言葉にできない
「嫌だった」
「分からない」
「手伝ってほしい」
「うるさくてつらい」
と感じていても、それを言葉で説明できないことがあります。
その結果、泣く、怒る、物を投げるなどの行動が、気持ちを伝える手段になっている場合があります。
切り替えが難しい
遊びを終える、動画を消す、家を出る、お風呂に入るなど、
「今やっていることをやめて、次のことに移る」
場面で癇癪が起こることがあります。
突然終わりを告げられるより、
「あと5分」
「これが終わったらおしまい」
と前もって伝えた方が、切り替えやすい子もいます。
疲れ・空腹・睡眠不足
大人でも、疲れていたり、お腹がすいていたり、寝不足だったりすると、気持ちに余裕がなくなります。
子どもも同じです。
特に幼い子どもは、自分で
「疲れている」
「お腹がすいている」
と気づいたり、伝えたりすることが難しいことがあります。
そのため、普段なら気にならないことでも、強い癇癪につながる場合があります。
刺激が多すぎる
大きな音、人の多さ、明るい照明、強いにおいなど、周囲の刺激が負担になっている場合があります。
刺激が重なると、子ども自身も理由を説明できないまま、突然泣いたり、怒ったり、その場から離れたがったりすることがあります。
このような場合には、
「何が嫌だったの?」
だけでなく、
「音が大きかったかな」
「人が多くて疲れたかな」
と環境も一緒に見ていくことが大切です。
不安やストレスが強い
園や学校での出来事、家族との関係、予定の変化、苦手な活動などが重なると、癇癪が増えることがあります。
子どもは、その場では頑張っていても、安心できる家に帰ってから気持ちが崩れることもあります。
「家でだけ癇癪がひどい」
からといって、
「家で甘えているだけ」
とは限りません。
どんな場面のあとに起こりやすいのか、少し前から何があったのかを見ることが手がかりになります。
癇癪が起きたとき、まずどうすればいい?
癇癪が始まると、
「何とか早く止めなければ」
と思うかもしれません。
しかし、子どもが強い感情でいっぱいになっている最中は、長い説明をしたり、理由を聞いたりしても、うまく届かないことがあります。
まず大切なのは、安全を確保し、落ち着くまで待つことです。
安全を確保する
叩く、蹴る、物を投げる、道路へ飛び出そうとするなど、安全に関わる行動がある場合は、まず本人や周囲の人がけがをしないようにします。
危険な物を遠ざけたり、安全な場所へ移動したりします。
必要な場合には、危険な行動を止めることを優先します。
「怒ってはいけない」と感情そのものを否定するのではなく、
「怒っているのは分かるよ。でも叩くのは止めよう」
というように、気持ちと行動を分けて考えることが大切です。
大人はできるだけ落ち着く
激しく泣いたり叫んだりしている子どもを前にすると、大人も焦ったり、腹が立ったりすることがあります。
しかし、大人が大きな声で言い返すと、子どもの興奮がさらに強くなることがあります。
まずは、
- 声の大きさを少し落とす
- 言葉を短くする
- 安全を確認して少し待つ
ことを意識します。
大人自身が限界に近いときには、可能であれば別の大人と交代することも一つの方法です。
その場で長く説明しすぎない
癇癪の最中に、
「どうしてそんなことをするの」
「さっき言ったでしょう」
「ちゃんと説明しなさい」
と長く話しても、子どもが受け止められないことがあります。
その場では、
「大丈夫。ここにいるよ」
「落ち着いたら話そう」
「叩くのは止めよう」
など、短い言葉で十分なことがあります。
話し合いや振り返りは、子どもも大人も落ち着いてから行います。
落ち着いてから気持ちを言葉にする
癇癪がおさまったあとに、
「まだ遊びたかったんだね」
「急に終わって嫌だったね」
「うまくできなくて悔しかったね」
というように、子どもの気持ちを言葉にしてみます。
これは、癇癪をほめることではありません。
子どもが、
「自分は今、悔しかったんだ」
「嫌だったことを言葉で伝えていいんだ」
と少しずつ理解していく手助けになります。
気持ちを受け止めることと、危険な行動を許すことは別です。
癇癪を減らすために家庭でできること
癇癪を完全になくすことを目標にする必要はありません。
それよりも、
「どんなときに起こりやすいのか」
「何を変えると少し楽になるのか」
を見つけていくことが大切です。
起こりやすい条件を見つける
癇癪が起きたときだけを見るのではなく、その少し前を振り返ってみます。
たとえば、
- 眠かった
- お腹がすいていた
- 予定が急に変わった
- 遊びを突然終わらされた
- 人が多い場所に長くいた
- 難しいことを求められた
- 学校や園で疲れていた
といった共通点が見つかることがあります。
簡単なメモでも構いません。
「いつ」
「どこで」
「直前に何があったか」
「どうすると落ち着いたか」
を残しておくと、繰り返すパターンが見えやすくなります。
予定や終わりを前もって伝える
切り替えが苦手な子どもには、
「もう終わり」
と突然伝えるよりも、
「あと10分」
「あと1回やったら終わり」
「この動画が終わったらお風呂」
というように、前もって伝える方が切り替えやすいことがあります。
時計やタイマー、予定表などを使って、終わりを見える形にする方法もあります。
選べることを少し増やす
子どもがすべてを自分で決めることはできません。
一方で、何も選べない状態が続くと、強く反発することがあります。
たとえば、
「お風呂に入る?入らない?」
ではなく、
「先にパジャマを持っていく?タオルを持っていく?」
というように、大人が決める部分は変えず、その中で小さな選択肢を作る方法があります。
自分で決められる部分があることで、切り替えやすくなる子もいます。
できたときに具体的に伝える
癇癪が起きなかったときは、つい何も言わずに終わってしまうことがあります。
しかし、
「嫌だったって言葉で言えたね」
「あと1回で終われたね」
「待てたね」
というように、うまくできたことを具体的に伝えると、
「どうすればうまくいくのか」
が子どもにも分かりやすくなります。
「いい子だったね」だけではなく、何ができたのかを具体的に伝えるのがポイントです。
生活リズムを整える
癇癪は、疲れや空腹、睡眠不足が重なると起こりやすくなることがあります。
そのため、
- 睡眠時間を確保する
- 空腹になる前に食事や間食をとる
- 予定を詰め込みすぎない
- 疲れている日は無理を減らす
といった調整も大切です。
「本人が我慢できるようにする」だけでなく、
「癇癪が起こりにくい条件をつくる」
という視点も役立ちます。
「癇癪がひどい=発達障害」ではありません
癇癪が激しいと、
「発達障害なのでは?」
と心配になることがあります。
しかし、癇癪があることだけで、発達障害と判断することはできません。
幼児期には、思いどおりにならないことや、気持ちをうまく言葉にできないことをきっかけに、強く泣いたり怒ったりすることがあります。
また、疲れ、空腹、睡眠不足、不安、環境の変化などでも、癇癪は起こりやすくなります。
大切なのは、
「癇癪があるかどうか」
だけではなく、
「どんな場面で起きるのか」
「どのくらい続くのか」
「本人や家族の生活にどのくらい影響しているのか」
を見ていくことです。
発達障害と癇癪にはどんな関係がある?
発達障害のある子どもの中には、癇癪が起こりやすい子もいます。
ただし、発達障害そのものが直接「癇癪を起こす」という単純な関係ではありません。
たとえば、
- 言葉で気持ちを伝えることが難しい
- 予定の変更や切り替えが苦手
- 音や光、人の多さなどの刺激が負担になりやすい
- 待つことや衝動を抑えることに難しさがある
- 見通しが立たないと不安が強くなる
といったことが重なると、結果として強い癇癪につながることがあります。
つまり、
「癇癪を止めること」
だけに目を向けるのではなく、
「何が負担になっているのか」
「何を伝えようとしているのか」
「環境をどう変えると楽になるのか」
を見ることが大切です。
叱れば癇癪はなくなる?
癇癪が続くと、
「もっと厳しくした方がいいのでは」
「甘やかしているからでは」
と考えることがあるかもしれません。
しかし、強く叱ることだけで癇癪の背景が解決するとは限りません。
子どもが強い感情でいっぱいになっているときには、さらに強い言葉を重ねることで、興奮が強くなることもあります。
もちろん、
叩く
蹴る
物を投げる
など、安全に関わる行動は止める必要があります。
ただし、
「怒ること」そのものを否定するのではなく、
「怒っている気持ちは分かる。でも叩くことは止めよう」
というように、気持ちと行動を分けて伝えることが大切です。
癇癪のときに避けたい対応
癇癪の対応に、すべての子どもに共通する正解があるわけではありません。
一方で、次のような対応は、かえって癇癪を強くしたり、長引かせたりすることがあります。
- 大声で怒鳴り返す
- 癇癪の最中に長く説教する
- 理由を何度も問いつめる
- 「泣くな」「怒るな」と感情そのものを否定する
- 毎回、癇癪を止めるためだけに要求を通す
特に、
癇癪のたびに、その場を収めるためだけに要求が通ることが続くと、結果として同じ行動が繰り返されやすくなる場合があります。
ただし、これは
「絶対に要求を聞いてはいけない」
という意味ではありません。
子どもの要求そのものが妥当な場合もありますし、環境の調整が必要なこともあります。
大切なのは、
癇癪の最中にその場しのぎで決めるのではなく、
落ち着いているときに、
「何ならできるか」
「どう伝えればよいか」
を考えておくことです。
相談した方がいいのはどんなとき?
癇癪があるからといって、すぐに受診が必要というわけではありません。
一方で、次のような場合には、専門機関への相談を考えてもよいでしょう。
- 癇癪が非常に頻繁で、生活に大きな負担がある
- 一度始まると長時間続くことが多い
- 自分や他人を強く傷つける
- 物を壊すなど危険な行動がある
- 園や学校、外出など日常生活に大きな支障が出ている
- 年齢が上がっても激しい癇癪が続いている
- 言葉やコミュニケーション、発達についてほかにも気になることがある
- 保護者が対応に疲れきっている
「この程度で相談していいのかな」
と迷う場合でも、
「家庭でどう対応すればいいか相談したい」
という理由で相談して大丈夫です。
相談先はどこ?
相談先としては、
- かかりつけの小児科
- 発達を専門とする医療機関
- 地域の発達相談窓口
- 保健センター
- 子育て支援センター
- 園や学校の先生
- スクールカウンセラー
などがあります。
相談するときには、
「癇癪がひどいです」
だけでなく、
「どんなときに起きやすいか」
「どのくらい続くか」
「どんな行動があるか」
「落ち着くきっかけはあるか」
「家庭と園・学校で違いがあるか」
を伝えると、状況を整理しやすくなります。
癇癪だけで、その子を決めつけない
癇癪が激しいと、その行動ばかりが目につくようになることがあります。
しかし、癇癪は、その子のすべてではありません。
何が苦手なのか。
何なら伝わりやすいのか。
どんな場面なら落ち着いて過ごせるのか。
何を楽しんでいるのか。
どんなことが得意なのか。
そうしたことも一緒に見ていくことが大切です。
癇癪を「困った行動」として止めることだけを考えるのではなく、
「この子は今、何に困っているのだろう」
と考えることで、できる対応が増えていきます。
理解できることが増えれば、できることも増えていきます。
参考資料
・American Academy of Pediatrics / HealthyChildren
Top Tips for Surviving Tantrums
https://www.healthychildren.org/English/family-life/family-dynamics/communication-discipline/Pages/Temper-Tantrums.aspx
・Centers for Disease Control and Prevention
Tips for Noticing and Naming Emotions
https://www.cdc.gov/parenting-toddlers/noticing-and-naming/emotion-coaching.html
・National Institute for Health and Care Excellence
Assessing possible triggers for behaviour that challenges
https://www.nice.org.uk/guidance/QS51/chapter/quality-statement-7-assessing-possible-triggers-for-behaviour-that-challenges
・American Academy of Pediatrics / HealthyChildren
Helping Children Handle Stress
https://www.healthychildren.org/English/healthy-living/emotional-wellness/Pages/Helping-Children-Handle-Stress.aspx
