「何度言っても忘れてしまう」
「じっと座っているのが苦手」
「思いついたら、すぐに行動してしまう」
「話を最後まで聞く前に動いてしまう」
そんな様子が続くと、
「もしかしてADHDなのかな」
と気になることがあるかもしれません。
注意欠如多動症(ADHD)は、不注意、多動性、衝動性などがみられる神経発達症の一つです。
ただし、落ち着きがない、忘れ物が多い、集中が続かないといった一つの行動だけで、ADHDと判断することはできません。
子どもの年齢や発達の段階、どんな場面で起きているのか、生活の中でどのくらい困っているのかなどを、いくつかの視点から見ていくことが大切です。
この記事では、ADHDの子どもにみられることのある特徴、診断の考え方、家庭でできる工夫、相談先まで、保護者が知っておきたい基本を整理します。
注意欠如多動症(ADHD)とは?
注意欠如多動症(ADHD)は、主に
・不注意
・多動性
・衝動性
といった特徴がみられる神経発達症です。
ただし、すべての子どもに同じ特徴がみられるわけではありません。
不注意が目立つ子もいれば、多動性や衝動性が目立つ子もいます。
また、その両方がみられる場合もあります。
特徴の現れ方や困り方は、一人ひとり違います。
さらに、同じ子どもでも、年齢や環境によって見え方が変わることがあります。
ADHDの子どもには、どんな様子がみられる?
ADHDについて調べると、
「忘れ物が多い」
「じっとしていられない」
「すぐに動いてしまう」
といった説明を目にすることがあります。
ただし、こうした行動はADHDのある子どもだけにみられるものではありません。
子どもであれば、疲れているときや興奮しているとき、慣れない環境にいるときなどに、集中しにくくなったり、落ち着かなくなったりすることがあります。
大切なのは、一つの行動だけを見るのではなく、
「どのくらい続いているのか」
「どんな場面で起きているのか」
「生活や学習、人との関係にどのくらい影響しているのか」
まで含めて見ることです。
不注意
不注意とは、注意を向け続けたり、必要なことを覚えておいたり、順序立てて行動したりすることに難しさがみられる状態です。
たとえば、
・話を聞いている途中で注意がそれる
・宿題や支度の途中で別のことを始める
・持ち物を忘れたり、なくしたりすることが多い
・指示を途中までしか覚えていない
・細かいところでうっかり間違える
・やることの順番を整理するのが苦手
といった様子がみられることがあります。
ただし、「集中できない子」という意味ではありません。
好きなことや興味の強いことには、長く集中できる場合もあります。
そのため、「集中できることもあるからADHDではない」と単純に判断することもできません。
多動性
多動性とは、その場や状況に合わせて体の動きを調整することに難しさがみられる状態です。
たとえば、
・座っている場面でも体をよく動かす
・席を離れることが多い
・走ったり登ったりすることが多い
・静かに遊ぶことが苦手
・話す量が多い
・いつも動いているように見える
といった様子がみられることがあります。
ただし、多動性の見え方は年齢によって変わることがあります。
幼い時期には走り回るなどの動きとして目立っていても、年齢が上がるにつれて、外から見える動きは少なくなり、
「じっとしていると落ち着かない」
「体の中がそわそわする」
といった形で感じられることもあります。
衝動性
衝動性とは、考えてから行動するよりも先に、思いついたことを行動に移してしまいやすい状態です。
たとえば、
・質問が終わる前に答える
・順番を待つことが苦手
・会話や遊びに割り込む
・思いついたらすぐに行動する
・欲しいものを見つけると、すぐに手を伸ばす
・危険を十分に考える前に動いてしまう
といった様子がみられることがあります。
こうした行動は、単に「わがまま」「しつけができていない」と説明できるものではありません。
一方で、衝動的な行動があるからといって、必ずADHDというわけでもありません。
年齢や発達の段階、場面、頻度、生活への影響などを含めて考える必要があります。
同じADHDでも、子どもの姿は一人ひとり違う
ADHDというと、
「落ち着きがない」
「じっとしていられない」
というイメージを持たれることがあります。
しかし、ADHDの現れ方は一人ひとり違います。
現在の診断では、主に
・不注意が目立つ場合
・多動性・衝動性が目立つ場合
・その両方がみられる場合
があります。
たとえば、
忘れ物やうっかりミスが多いけれど、授業中は静かに座っている子もいます。
反対に、持ち物の管理にはあまり困っていなくても、待つことや行動を止めることに難しさがみられる子もいます。
また、同じように「宿題が進まない」という困りごとがあっても、その背景は同じとは限りません。
注意がそれやすいのか。
何から始めればよいか整理するのが難しいのか。
長い時間集中し続けることが負担なのか。
失敗が続いて、取りかかること自体が嫌になっているのか。
表面に見える行動だけでは、その子がどこで困っているのかは分かりません。
診断名だけでなく、その子自身の得意なこと、苦手なこと、困りやすい場面を見ていくことが大切です。
年齢や環境によって、見え方が変わることもある
ADHDの特徴は、いつも同じように見えるとは限りません。
年齢や、その場で求められることによって、見え方が変わることがあります。
幼いころには、
・走り回る
・待つことが難しい
・すぐに別の遊びへ移る
といった様子が目立つことがあります。
一方、年齢が上がると、外から見える大きな動きは少なくなっても、
・じっとしていると落ち着かない
・頭の中が次々と別のことに移る
・課題や予定を整理することが難しい
・忘れ物や提出物の管理で困る
といった形で現れることがあります。
また、環境によっても違います。
家では比較的落ち着いていても、学校では困りごとが目立つことがあります。
逆に、学校では周囲に合わせて過ごしていても、家に帰ると疲れて動けなくなったり、気持ちが大きく崩れたりすることもあります。
課題の量、周囲の刺激、見通しの立ちやすさ、支援の有無などによっても、行動の現れ方は変わります。
そのため、一つの場面だけを見て判断するのではなく、家庭、学校、園など、いくつかの場面での様子を確認することが大切です。
「落ち着きがない=ADHD」ではありません
子どもが、
・じっとしていない
・忘れ物が多い
・話を聞いていないように見える
・すぐに行動してしまう
といった様子を見せると、
「ADHDなのでは?」
と心配になることがあります。
しかし、こうした行動があるだけでADHDと判断することはできません。
子どもはもともと、大人よりも注意を長く保ったり、自分の行動を止めたりすることが難しい時期があります。
また、
・睡眠不足
・強い不安
・学習の難しさ
・周囲の刺激の多さ
・家庭や学校でのストレス
・ほかの発達や心身の問題
などによって、ADHDと似たような様子がみられる場合もあります。
大切なのは、
「この行動があるか」
だけではなく、
「年齢や発達の段階と比べてどうか」
「どのくらい続いているのか」
「複数の場面でみられるのか」
「生活や学習、人との関係にどのような影響があるのか」
まで含めて考えることです。
ADHDはどうやって診断する?
ADHDは、血液検査や画像検査など、一つの検査だけで診断するものではありません。
診断では、子どものこれまでの発達や生活の様子を、いくつかの情報から総合的に確認します。
たとえば、
・どのような行動がみられるか
・いつごろからみられているか
・家庭や学校など複数の場面でどうか
・生活や学習、人との関係にどの程度影響しているか
・発達や学習の状況
・睡眠や心身の状態
・ほかに行動を説明できる原因がないか
などを確認します。
保護者からの話だけでなく、必要に応じて、学校や園などでの様子について情報を集めることもあります。
質問紙や評価尺度が使われることもありますが、その結果だけで診断が決まるわけではありません。
また、睡眠の問題、不安、学習の難しさなど、ADHDと似た様子を示す別の要因がないかを確認することも大切です。
つまり、ADHDの診断は、
「落ち着きがないから」
「忘れ物が多いから」
「検査の点数が高かったから」
という一つの理由だけで決まるものではありません。
子どもの発達歴、現在の生活、複数の場面での様子、困りごとの程度などを総合して判断します。
診断がつかなければ、支援は必要ない?
診断がつかなかったからといって、
「困っていない」
「支援は必要ない」
ということではありません。
ADHDの診断基準を満たさなくても、
・忘れ物が多くて本人が困っている
・宿題や支度にとても時間がかかる
・気がそれやすく、課題を終えることが難しい
・待つことや切り替えることに強い負担がある
・学校生活で失敗が重なって自信をなくしている
といった困りごとがみられることがあります。
大切なのは、診断名があるかどうかだけではなく、
「今、どんな場面で困っているのか」
「何を変えると過ごしやすくなるのか」
を見ることです。
診断の有無にかかわらず、困りごとに応じて環境を調整したり、伝え方を工夫したりすることはできます。
困った行動だけでなく、その背景を見てみる
「何度言ってもやらない」
「すぐに席を立つ」
「話を聞いていない」
「待てずに割り込む」
こうした行動だけを見ると、
「もっと頑張ればできるのでは」
「わざとやっているのでは」
と感じてしまうことがあるかもしれません。
しかし、同じ行動でも、その背景は一つではありません。
たとえば宿題を始められない場合でも、
・何から始めればよいか分からない
・必要なものをそろえることが難しい
・周囲の音や物が気になって集中できない
・課題が長く、終わりが見えない
・失敗した経験が続いて取りかかること自体がつらい
など、いくつもの理由が考えられます。
そのため、
「どうしてできないの?」
だけではなく、
「どこで止まっているのだろう」
「何があれば始めやすいだろう」
と考えてみることが、支援の手がかりになります。
家庭でできることは?
ADHDのある子どもへの工夫は、
「もっと我慢させる」
「何度も注意する」
ことだけではありません。
子どもが行動しやすいように、伝え方や環境を調整することも大切です。
指示は短く、具体的に伝える
一度にたくさんのことを言われると、途中で何をすればよいか分からなくなることがあります。
たとえば、
「早く準備して」
ではなく、
「まず靴下をはこう」
「次にランドセルを持とう」
というように、やることを小さく分けて伝える方法があります。
できれば、子どもに近づいて注意を向けてもらってから伝えると、伝わりやすくなることがあります。
やることを見える形にする
言葉だけで覚えておくことが難しい場合には、
・チェックリスト
・予定表
・ホワイトボード
・絵や写真
・タイマー
などを使って、やることを見える形にすると役立つことがあります。
たとえば朝の支度なら、
「着替える」
「朝ごはん」
「歯みがき」
「ランドセル」
というように順番を見えるようにしておくと、次に何をすればよいか確認しやすくなります。
集中しやすい環境を整える
集中することを本人の努力だけに任せるのではなく、周囲の環境を調整する方法もあります。
たとえば、
・机の上に必要なものだけを置く
・テレビや動画を消してから宿題を始める
・人の出入りが少ない場所を使う
・長い課題は短い時間に分ける
・休憩をあらかじめ入れる
といった工夫があります。
どの方法が合うかは子どもによって違うため、
「どんな環境なら取り組みやすかったか」
を見ながら調整していきます。
できたことを具体的に伝える
注意される機会が多い子どもは、
「自分はいつも失敗する」
と感じやすくなることがあります。
そのため、できなかったことだけでなく、できたことを具体的に伝えることも大切です。
たとえば、
「えらいね」
だけではなく、
「言われてすぐランドセルを置けたね」
「5分間、宿題に取り組めたね」
「順番を待てたね」
というように、何ができたのかを具体的に伝えます。
子ども自身が、
「どうすればうまくいくのか」
を分かりやすくなることにもつながります。
切り替えや待つことを助ける
楽しいことをやめたり、次の行動に切り替えたり、順番を待ったりすることに難しさがみられる場合があります。
突然、
「もう終わり」
と言うよりも、
「あと5分で終わり」
「これが終わったらお風呂」
というように、少し前から予告すると切り替えやすくなることがあります。
タイマーや時計などを使って、
「いつ終わるのか」
を見える形にする方法もあります。
うまくいった方法を残しておく
家庭で工夫するときに大切なのは、
「正しい方法を一つ見つける」
ことではありません。
同じ子どもでも、年齢やその日の疲れ、環境によって、うまくいく方法は変わります。
「この伝え方だと動きやすかった」
「この場所だと集中できた」
「先に知らせると切り替えられた」
といった、うまくいった条件を少しずつ見つけていくことが大切です。
ADHDは「治る・治らない」で考えた方がいい?
ADHDについて調べていると、
「治るのでしょうか」
「大人になっても続くのでしょうか」
と気になることがあるかもしれません。
ADHDは、風邪のように「治って元の状態に戻る」という捉え方だけでは十分ではありません。
一方で、
「ADHDだから、ずっと何も変わらない」
ということでもありません。
子どもは成長していきます。
年齢とともに特徴の現れ方が変わることもありますし、自分に合った方法を身につけたり、周囲の環境が整ったりすることで、困りごとが小さくなることもあります。
また、必要に応じて、行動への支援、環境調整、保護者への支援、学校との連携、医療的な治療などが検討されます。
大切なのは、
「ADHDをなくすこと」
だけを目標にするのではなく、
「今、何に困っているのか」
「どうすれば生活しやすくなるのか」
を考えていくことです。
ADHDは親の育て方が原因?
「しつけが足りなかったのでは」
「もっと厳しくしていれば違ったのでは」
と考えてしまう保護者もいるかもしれません。
しかし、ADHDは神経発達症の一つであり、親の育て方や愛情不足によって生じるものではありません。
原因については現在も研究が続いています。
また、保護者向けの支援やペアレントトレーニングが勧められることがありますが、これは「育て方が悪かったから直す」という意味ではありません。
子どもの困りごとに合った関わり方や環境の整え方を学び、家庭での負担を減らすための支援です。
子どもの発達が気になったら、相談していい
「忘れ物が多くて学校生活に困っている」
「宿題に毎日とても時間がかかる」
「落ち着きのなさや衝動的な行動で、本人も周囲も困っている」
そんなときは、診断がつくかどうかを自分で判断してから相談する必要はありません。
まずは、
・かかりつけの小児科
・発達を専門とする医療機関
・地域の発達相談窓口
・保健センター
・学校や園の先生
・スクールカウンセラー
など、相談しやすいところから話してみることができます。
相談するときには、
「ADHDでしょうか?」
だけでなく、
「どんな場面で困っているのか」
「いつごろから続いているのか」
「家庭と学校で違いがあるか」
「何をすると少しうまくいくのか」
を伝えると、必要な支援を考える手がかりになります。
ADHDという診断名だけでは、その子は分からない
ADHDという診断名を知ることで、
これまで「どうしてできないのだろう」と感じていた行動の背景が、少し見えやすくなることがあります。
ただし、診断名だけで、その子のすべてが分かるわけではありません。
何が苦手なのか。
何なら取り組みやすいのか。
どんな伝え方なら分かりやすいのか。
どんな環境なら集中しやすいのか。
何が好きなのか。
何が得意なのか。
大切なのは、診断名だけを見るのではなく、その子自身を見ることです。
ADHDのある子どもも発達していきます。
子どもだけに「もっと頑張ること」を求めるのではなく、伝え方や環境を変えることで、できることが増える場合があります。
理解できることが増えれば、できることも増えていきます。
診断名は、その子の未来を決めるものではありません。
その子をよりよく理解し、必要な支援を考えるための一つの手がかりです。
参考資料
・国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター
・World Health Organization. Clinical Descriptions and Diagnostic Requirements for ICD-11 Mental, Behavioural or Neurodevelopmental Disorders.
・Centers for Disease Control and Prevention. Diagnosing ADHD.
・Centers for Disease Control and Prevention. Treatment of ADHD.
・National Institute for Health and Care Excellence. Attention deficit hyperactivity disorder: diagnosis and management. NG87.
