「目が合いにくい気がする」
「一人で遊ぶことが多い」
「同じことを繰り返したがる」
「予定が変わると、とても不安定になる」
そんな子どもの姿を見て、「もしかして、自閉スペクトラム症なのかな」と気になっている方もいるかもしれません。
インターネットで調べると、「ASDの特徴○選」「自閉症チェックリスト」といった情報もたくさん出てきます。
けれど、子どもの一つの行動だけを見て、自閉スペクトラム症かどうかを判断することはできません。
大切なのは、診断名に当てはめることを急ぐよりも、その子がどんな場面で困りやすく、どんな状況なら過ごしやすいのかを少しずつ理解していくことです。
この記事では、自閉スペクトラム症(ASD)とは何か、子どもにはどのような様子がみられることがあるのか、診断では何を見るのか、そして家庭では何を考えていけばよいのかを、現在の医学的な考え方をもとに整理します。
発達障害(神経発達症)全体について知りたい方はこちら
自閉スペクトラム症(ASD)とは?
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)は、神経発達症の一つです。
主に、人との相互的なやりとりやコミュニケーションの難しさと、限定的・反復的な行動や興味、変化への対応の難しさなどがみられます。
感覚の受け取り方に違いがみられることもあります。ただし、ASDの現れ方は一人ひとり大きく異なります。よく話す子もいれば、言葉で伝えることに大きな難しさがある子もいます。人と関わることが好きでも、会話のやりとりや相手の意図を読み取ることに難しさがある子もいます。
知的発達についても、知的障害を伴う場合もあれば、伴わない場合もあります。
そのため、「ASDの子どもはこういう子」と一つのイメージで捉えることはできません。
WHOも、自閉スペクトラム症のある人の能力や必要とする支援は非常に多様であり、時間とともに変化することがあるとしています。
ASDの子どもには、どんな様子がみられる?
ASDについて調べると、さまざまな特徴が紹介されています。
ただし、ここで紹介するものは診断のためのチェックリストではありません。ASDではどのような部分に違いが現れることがあるのかを理解するための例として見てください。
人とのやりとり・コミュニケーション
たとえば、
・自分の興味のあることを一方的に話しやすい
・会話の順番をつかみにくい
・相手の表情や言葉の意図を読み取りにくい
・場面に応じたやりとりが難しい
・気持ちや要求を伝えることが難しい
・人との距離感をつかみにくい
といった様子がみられることがあります。
一方で、「人に興味がない」「愛情表現をしない」とは限りません。
家族に甘えたり、よく笑ったり、人と関わることが好きだったりするASDの子どももいます。NICEの診断ガイドラインでも、目が合う、笑顔を見せる、家族に愛情を示すといったことだけを理由にASDを否定してはいけないとされています。
興味や行動のパターン
ASDでは、
・同じ遊びを繰り返す
・特定のものに強い興味を持つ
・物の一部分や細かなところに注目する
・決まった順番や方法を好む
・予定の変更に強い不安を感じる
・同じ動きや行動を繰り返す
といった様子がみられることがあります。
ただし、子どもはもともと「同じことを何度もしたい」「好きなものに夢中になる」ということがあります。そのため、「電車が大好きだからASD」「同じ遊びを繰り返すからASD」ということではありません。
行動そのものだけでなく、その程度や持続性、ほかの発達の様子、生活への影響などを含めて考える必要があります。
感覚の感じ方
ASDの子どもの中には、音、光、触覚、におい、味などの感じ方に違いがある子もいます。
たとえば、
・掃除機やドライヤーなど特定の音を強く嫌がる
・人混みや騒がしい場所で疲れやすい
・服のタグや素材を嫌がる
・特定の食感を強く避ける
・光をまぶしく感じやすい
・逆に、強い刺激を好む
などです。
ここでも大切なのは、感覚の違いがあるかどうかだけではありません。どんな刺激で困っているのか、それが生活にどのような影響を与えているのかを見ることが大切です。
言葉や知的発達も一人ひとり違う
ASDというと、「言葉が遅い」というイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、言葉の発達も一人ひとり異なります。言葉の遅れが目立つ子もいれば、年齢相応、あるいは豊富な語彙を持つ子もいます。
一方で、言葉をたくさん知っていても、「相手に合わせて会話する」「曖昧な表現を理解する」「言葉の裏にある意図を読み取る」といった社会的なコミュニケーションに難しさがみられる場合があります。また、言葉が遅いことだけでASDと判断することもできません。
ICD-11でも、早期の言語発達の遅れだけではASDを強く示すものではなく、社会的コミュニケーションや相互的なやりとりを含めて評価する必要があるとされています。
同じASDでも、子どもの姿は大きく違う
「スペクトラム」という言葉から、「軽い自閉症から重い自閉症まで一直線に並んでいる」とイメージするかもしれません。しかし、実際にはそれほど単純ではありません。
たとえば、言葉で伝えることは得意だけれど、人間関係では困りやすい子。
予定の変更には対応できるけれど、音への敏感さが強い子。
学習面では困っていないけれど、集団生活で疲れやすい子。
日常生活のさまざまな場面で、多くの支援を必要とする子。
それぞれ違います。
得意なこと、苦手なこと、感じ方、必要な支援の組み合わせは一人ひとり異なります。だからこそ、診断名だけを見るのではなく、
「この子の場合は、何が得意で、どこで困っているのか」
を見ることが重要になります。
年齢や環境によって、見え方が変わることもある
ASDに関連する発達の違いは幼いころからみられることがありますが、いつ、どのように気づかれるかは一人ひとり違います。
幼児期にはあまり目立たなかった困りごとが、園や学校に入ってから目立つこともあります。それは、成長とともに子どもに求められることが変わるからです。
たとえば学校では、
・集団で指示を聞く
・友達同士で話し合う
・暗黙のルールを理解する
・予定の変更に対応する
・複数のことを同時に意識する
といったことが増えていきます。
環境から求められることが増えることで、それまで見えにくかった困りごとが表面化する場合があります。逆に、その子に合った環境では困りごとが目立ちにくくなることもあります。
そのため、「家では問題ないから大丈夫」あるいは、「学校ではできているから困っていない」と一つの場面だけで判断せず、いくつかの場面での様子を見ることが大切です。
「こんな行動がある=ASD」ではありません
これは、保護者の方にぜひ知っておいてほしいことです。
たとえば、
「目が合いにくい」
「一人遊びが多い」
「こだわりが強い」
「同じことを繰り返す」
「音に敏感」
「友達との関わりが苦手」
といった様子は、ASDの子どもにみられることがあります。
しかし、一つの行動だけでASDと判断することはできません。
子どもの行動には、さまざまな理由があります。
たとえば、言葉の発達、不安、注意の向け方、知的発達、聴覚や視覚、環境との相性など、別の要因が関係していることもあります。
NICEのガイドラインでも、発達や行動について気になる点がある場合にはASDの可能性を考慮しつつ、個々の行動にはほかの説明があり得ることを意識するよう求めています。
インターネット上のチェックリストだけで、
「うちの子はASDだ」
「当てはまらなかったからASDではない」
と結論を出す必要はありません。
ASDはどうやって診断する?
ASDの診断は、血液検査や画像検査など、一つの検査で決まるものではありません。子どもの発達や生活について、さまざまな情報を総合して判断します。
診断では、たとえば、
・保護者が気になっていること
・これまでの発達の経過
・家庭での様子
・園や学校での様子
・子どもとのやりとりや行動の観察
・言葉やコミュニケーション
・身体や健康の状態
・ASD以外に考えられる状態
・一緒にみられることのある発達上・心身上の問題
などを確認します。
必要に応じて、ASDに関連する評価ツールが使われることもあります。
しかし、特定の検査の点数だけでASDと診断するわけではありません。
NICEも、複数の情報と専門家による臨床的判断を組み合わせて診断し、ASD用の診断ツールだけに頼って診断してはいけないとしています。
診断は、「ASDという名前をつけること」だけが目的ではありません。
その子の得意なことや困っていること、必要としている支援を整理することも重要です。
診断がつかなければ、支援は必要ない?
そうとは限りません。
ASDに関連する特徴がみられても、診断基準を満たさない子どももいます。
しかし、診断がないことと、困っていないことは同じではありません。
たとえば、
集団生活で強く疲れる。
友達との関係で繰り返し困る。
予定変更があると混乱してしまう。
音の多い教室で過ごすことがつらい。
こうした困りごとがあるなら、診断名の有無とは別に、その子に合った対応を考える意味があります。
NICEでも、ASDにみられる行動上の特徴があっても診断基準には達しない子どもについて、本人の状態に応じて適切なサービスへの紹介を検討するよう勧めています。
「診断がついてから支援を考える」のではなく、
今、何に困っているのかから考えていくことができます。
困った行動だけでなく、その前後を見てみる
子どもが突然泣く。
怒る。
その場から逃げる。
動けなくなる。
強く拒否する。
こうした姿を見ると、「困った行動をやめさせたい」と考えることもあると思います。でも、行動だけを見ていると、その背景を見落としてしまうことがあります。
たとえば、
「何が起きる直前だった?」
「予定が急に変わらなかった?」
「指示が分かりにくくなかった?」
「周りが騒がしくなかった?」
「疲れていなかった?」
「痛いところや体調不良はない?」
「本人は何かを伝えようとしていなかった?」
と考えてみると、別の見え方をすることがあります。
NICEも、子どもの行動が大きな困りごとになっている場合、コミュニケーションの難しさだけでなく、痛みなどの身体的問題、不安などの心理的問題、ADHDなどの併存状態、照明や騒音、生活の変化、予測しにくい状況などを確認することを勧めています。
「なぜそんなことをするの?」から、「この子にとって、何が起きているんだろう?」へ視点を変えることが、対応を考える第一歩になることがあります。
家庭でできることは?
ASDの子どもに、すべて共通する「正しい育て方」があるわけではありません。
その子が困っていることによって、必要な工夫は違います。
ただ、家庭で試せる考え方はいくつかあります。
見通しを伝える
「このあと何が起こるのか」が分からないことが、不安につながる子もいます。
そんなときは、
「ごはんを食べたら、お風呂。そのあと絵本」
というように、次の予定を分かりやすく伝えることで安心しやすくなることがあります。
言葉だけで伝わりにくければ、見える形にする
口頭で長く説明すると理解しにくい場合には、写真、絵、文字、予定表などを使う方法があります。
NICEでも、本人にとって意味のある言葉・絵・記号などの視覚的な支援を取り入れることが勧められています。
苦手な刺激を調整する
音や光などに強い負担を感じている場合、「慣れさせればいい」と考える前に、環境を調整できないか考えてみます。
たとえば、
静かな場所へ移動できるようにする。
強い光を避ける。
人混みで休める時間をつくる。
苦手な刺激が予想されるときには事前に伝える。
といった方法があります。
うまくいった条件を探す
困った場面だけでなく、
「今日はなぜうまくいったのだろう?」
と考えることも大切です。
説明が短かったから?
事前に予定が分かっていたから?
静かな場所だったから?
好きな方法で取り組めたから?
成功したときの条件が分かれば、それを別の場面でも活かせるかもしれません。
ASDは「治る・治らない」で考えた方がいい?
ASDについて調べると、
「治るの?」
「一生変わらないの?」
という疑問を持つ方も多いと思います。ASDは、一時的な病気が治って元通りになる、という意味での「治療」を考えるものとは少し異なります。
一方で、ASDだから、子どもは変わらないということでもありません。
子どもは成長します。
経験を重ね、コミュニケーションの方法を身につけたり、自分に合った対処方法を覚えたりすることがあります。
周囲がその子を理解し、環境や伝え方を調整することで、以前は大きかった困りごとが小さくなることもあります。
WHOも、ASDのある人の能力や必要な支援は時間とともに変化し得ること、エビデンスに基づいた心理社会的な支援がコミュニケーションや社会的スキルなどの向上につながり得ることを示しています。
だからこそ、
「治るか、治らないか」
だけで考えるより、「今、何に困っていて、何ができるだろう」と考える方が、子どもの生活を支えるうえでは役立ちます。
ASDは親の育て方が原因?
「自分の接し方が悪かったのでは」
「もっと話しかけていれば違ったのでは」
と考えてしまう保護者もいるかもしれません。
しかし、ASDは親の育て方や愛情不足によって生じるものではありません。ASDは神経発達症の一つであり、その原因については現在も研究が続いています。
「しつけが悪かったから」
「愛情が足りなかったから」
と考える必要はありません。
原因については、別の記事で改めて整理します。
子どもの発達が気になったら、相談していい
相談すると、
「すぐに診断されてしまうのでは」
と不安になる方もいるかもしれません。
でも、相談することと、診断を受けることは同じではありません。
「ASDかどうか分からないけれど、園で困っている」
「家では大丈夫だけれど、学校ではつらそう」
「言葉や人とのやりとりが少し気になる」
という段階で相談しても構いません。
まずは、かかりつけの小児科、地域の保健センターなどの相談窓口、発達障害者支援センターなど、地域で利用できる窓口に相談する方法があります。
相談するときには、
「ASDでしょうか?」
だけでなく、
「どんな場面で、何に困っているのか」
を伝えると、必要な支援を考える手がかりになります。
ASDという診断名だけでは、その子は分からない
自閉スペクトラム症という言葉を知ることで、これまで不思議に感じていた子どもの行動の意味が、少し見えやすくなることがあります。
でも、診断名だけで、その子のことがすべて分かるわけではありません。
何が苦手なのか。
何なら伝わりやすいのか。
どんな場所では落ち着いて過ごせるのか。
どんなことを楽しんでいるのか。
何が得意なのか。
そうしたことを一つずつ知っていくことが、その子に合った関わり方を考える手がかりになります。
診断名は、その子の未来を決めるものではありません。
そして、ASDのある子どもも発達していきます。
子どもだけに「変わること」を求めるのではなく、周囲の伝え方や環境を変えることで、できることが増える場合もあります。
理解できることが増えれば、できることも増えていきます。
子どもの行動を「困ったこと」として終わらせず、
「なぜ困っているのだろう」
「どんな方法ならうまくいくだろう」
と考えるところから、その子に合った支え方を探していくことができます。
参考資料
国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター「発達障害とは」
